「ファスティングって、体の中で何が起きているんですか?」
やってみようと思ったとき、この疑問にきちんと答えてくれる情報は意外と少ないものです。「デトックス」「体がリセットされる」といった言葉は目にしても、具体的に何がどうなるのかは分かりにくい。
この記事では、ファスティングの原理を3つに整理して、それぞれ研究データを示しながらご説明します。専門用語には必ず説明を添えますので、予備知識は必要ありません。
- 原理1|エネルギー源が切り替わる 糖から脂肪へ、体の燃料が変わります
- 原理2|血糖とインスリンが落ち着く インスリンの効きが良くなります
- 原理3|自然と食べる量が減る 我慢しなくても、結果的に摂取量が下がります
ひとつずつ見ていきましょう。
原理1|エネルギー源が「糖」から「脂肪」に切り替わる
これがファスティングの中心にあるしくみです。
体は、まず糖から使う
ご飯やパンを食べると、体はそれを糖に分解してエネルギーにします。使い切れなかった分は、肝臓に「グリコーゲン」という形で貯金されます。
糖をまとめて保管しておくための形です。肝臓に蓄えられる量は、カロリーにしておよそ700kcal分。ごはん茶碗にすると3〜4杯ぶんくらいの計算になります。
食べない時間が続くと、体はこの貯金を取り崩し始めます。そして貯金が尽きたとき、次の燃料に手を伸ばします。それが脂肪です。
切り替わるのは、12時間を超えたあたりから
ファスティング研究の総説(Anton et al. 2018, Obesity)によれば、最後の食事から通常12時間を超えたあたりで肝臓のグリコーゲンが枯渇し、脂肪酸が動員され始めます。この時点を「代謝スイッチ」と呼びます。
糖からケトン体への切り替えは、進化の過程で受け継がれてきたしくみであり、脂肪の貯蔵から脂肪の利用へと代謝の方向が変わる転換点だと説明されています。
Anton SD, et al. Obesity. 2018;26(2):254-268.
脂肪が分解されるときにできる物質で、糖の代わりのエネルギー源になります。体が「脂肪を使うモード」に入っているサインとも言えます。
食事を普通に3食+間食でとっている場合、この切り替えは基本的に起こりません。常に糖が供給され続けるためです。
時間ごとの流れ
食べたものを使っている
血糖が上がり、インスリンが出ている状態。体は「今入ってきたもの」をエネルギーにしています。
貯金を使い始める
肝臓のグリコーゲンを取り崩す時間帯。ここまでは体にとって余裕のある空腹です。
脂肪を使うモードへ
貯金が尽き、脂肪の利用へゆっくり移行します。16時間ファスティングが推奨されるのは、この時間帯に入るためです。
細胞の掃除が高まり始める
オートファジー(後述)が働きやすくなる時間帯とされています。ただし、どれほど働くかは個人差が大きく、まだ分かっていないことも多い領域です。
脂肪の利用が明確に優位に
ただしこの長さになると、リスクも確実に上がります。自己判断で行う領域ではありません。
細胞の中の不要になったものを分解して、新しく作り替えるしくみです。日本語では「自食作用」と訳されます。2016年に大隅良典氏がノーベル賞を受賞した研究テーマとして知られています。
なお、「美容効果」や「劇的な若返り」といったイメージが広まっていますが、ヒトでどこまで働くかについての科学的な裏づけは、現時点ではまだ限定的です。
原理2|血糖とインスリンが落ち着く
2つめは、血糖のコントロールに関わる話です。
そもそもインスリンとは
血液中の糖を、細胞に取り込ませるホルモンです。食事のたびに分泌されます。
このインスリンには、もうひとつの働きがあります。余った糖を脂肪として蓄える方向に働くのです。つまりインスリンが出ている間、体は「脂肪をためるモード」にあります。
1日3食に間食を加えると、インスリンはほぼ常に分泌され続けることになります。脂肪を使う時間が、ほとんどないまま1日が終わる。これが現代の食生活の特徴です。
インスリンの「効き」が良くなる
同じ状態が続くと、体はだんだんインスリンに反応しにくくなっていきます。これを「インスリン抵抗性」と呼びます。少ないインスリンでは血糖が下がらなくなり、より多くのインスリンが必要になる状態です。
間欠的ファスティングは、糖から脂肪酸・ケトン体の利用へと代謝を切り替えることで脂肪の代謝を高め、耐糖能とインスリン感受性を改善すると報告されています。
複数の臨床試験で、血糖値、インスリン値、インスリン感受性、血圧の改善が確認されています。中には、体重の減少とは独立してこれらの改善が見られたという報告もあります。
複数の臨床試験のレビューより(Gabel 2018、Jamshed 2019、Martens 2020、Sutton 2018 ほか)
体重が減らなくても代謝面の変化が起きうる、という点は注目に値します。ファスティングは、体重を減らすためだけの手段ではないということです。
夜に甘いものが欲しくなる理由
夜遅くにお菓子が食べたくなるのは、意志が弱いからではありません。
血糖が急に上がって急に下がる、いわゆる「血糖のジェットコースター」が一因とされています。急降下したときに、体は強く糖を求めます。
血糖が安定してくると、「間食したくなくなった」「甘いものを前ほど欲しくなくなった」と感じる方が多いと報告されています(個人差はあります)。
原理3|自然と、食べる量が減る
3つめは、いちばん地味ですが、実は最も現実的に効いている原理かもしれません。
我慢しなくても、量が減る
食事をとる時間枠を4〜10時間に制限した複数の臨床試験で、意図せず摂取エネルギーが20〜30%減少し、1〜4%の緩やかな体重減少が見られたと報告されています。
Anton 2019、Chow 2020、Cienfuegos 2020、Gabel 2018/2020、Gill & Panda 2015 ほか
ここで大事なのは「意図せず」という部分です。
「カロリーを減らしなさい」と指示されたわけではありません。食べる時間を決めただけで、結果的に食べる量が減っていた。つまり——
いつ食べるかを決めるだけ
カロリー計算も、食材の制限もありません。ルールが1つしかないので、覚えることが少なく、続けやすい。
体重が落ちるだけではない
そのほか、成長ホルモンやIGF-1というホルモンの調節、酸化ストレスや炎症の低下といった変化も報告されています。
体の中で「サビ」のようなものが溜まっていく状態です。細胞にダメージを与える要因のひとつとされています。
ただし、すべての研究が同じ結果ではありません
ここまで肯定的な研究をご紹介してきましたが、正直にお伝えしておきたいことがあります。
2020年に医学誌『JAMA Internal Medicine』に発表された試験(TREAT試験)では、過体重・肥満の成人116名を対象に16:8のファスティングを12週間行いましたが、体重の減少は1.17%にとどまり、通常の3食をとった対照群(0.75%)と有意な差は出ませんでした。
(Lowe DA, et al. JAMA Intern Med. 2020;180(11):1491-1499.)
多くの試験で良い結果が出ている一方で、こうした報告もあります。体感や結果には個人差があり、誰にでも同じ変化が起きるわけではありません。
私たちは「必ず痩せます」「誰でも効果が出ます」とは申し上げません。ただ、試してみる価値のある方法だとは考えています。
原理を知ると、やり方が決まる
3つの原理を踏まえると、実践するときの判断がしやすくなります。
| 原理 | 実践するときの意味 |
|---|---|
| 12時間を超えると脂肪代謝へ | 16時間が推奨されるのは、この時間帯に確実に入るため |
| インスリンが出ると切り替わらない | 糖分のある飲み物は避ける。血糖を上げれば振り出しに戻る |
| 時間を決めるだけで量が減る | カロリー計算は不要。時間だけ守ればいい |
ファスティング中に「何を飲んでいいか」で迷う理由も、ここにあります。血糖を上げる飲み物は、せっかく入りかけた脂肪代謝のスイッチを戻してしまうためです。
飲み物の選び方については、こちらで詳しく解説しています。
▶ ファスティング中に飲んでいいものは?酵素ドリンクは必要か
始める前に、必ず確認してください
原理として理にかなっていても、すべての方に適した方法ではありません。
以下に該当する方は、必ず事前に医師にご相談ください。
| 持病・服薬 | 糖尿病で治療中の方、高血圧で降圧薬を服用している方、利尿薬・精神科の薬(SSRI/SNRIなど)・片頭痛治療薬を服用している方、その他服薬中の方全般 |
|---|---|
| 年齢・体格 | 妊娠中・授乳中の方、未成年・10代の成長期の方、65歳以上の方、痩せ型の方(BMI 18.5未満) |
| その他 | 摂食障害の既往がある方、高齢で体力が落ちている方、健康に不安のある方 |
また女性の場合、ホルモンバランスの影響を受けやすいため、生理前や生理中は避け、生理が終わって1週間後あたりが体調の安定しやすい時期とされています。
ファスティング中に強い頭痛、めまい、吐き気、手足の震え、動悸、発熱などが出た場合は、その時点で中止してください。途中でやめることは失敗ではありません。
ファスティングの原理に関するよくあるご質問
なぜ空腹が体に良いと言われるのですか?
空腹の時間ができると、体は「消化モード」から「修復モード」へ切り替わります。その結果、脂肪代謝が進む、血糖が安定する、胃腸が休まる、といった変化が起こると考えられています。
何時間から効果が出ますか?
脂肪代謝への切り替えは、最後の食事から12時間を超えたあたりから始まるとされています。16時間ファスティングが推奨されるのは、この時間帯に確実に入るためです。
16時間だけでも変化はありますか?
睡眠時間が含まれるため取り組みやすく、血糖の安定や胃腸の休息が得られると報告されています。ただし体重面での劇的な変化は期待しにくく、個人差もあります。
代謝が悪くなって痩せにくくなりませんか?
短期のファスティングでは、一時的に代謝が上昇する可能性が報告されています。適度な空腹が代謝低下の原因になるとは考えられていません。
長くやるほど効果が高いのですか?
時間が長くなるほど脂肪代謝は進みやすくなりますが、同時に低血糖や脱水、電解質異常のリスクも上がります。「長いほうが効く」という理由だけで日数を伸ばすのは避けてください。
仕事をしながらでもできますか?
16時間ファスティングであれば、睡眠時間が含まれるため普段どおりの生活のまま取り入れられます。
まとめ
- 原理1|最後の食事から12時間を超えると、肝臓の糖の貯金が尽き、脂肪を使うモードへ切り替わります
- 原理2|インスリンの効きが良くなり、血糖・血圧の改善が複数の試験で報告されています
- 原理3|食べる時間を決めるだけで、意図せず摂取量が20〜30%減ることが報告されています
- ただし、すべての研究が同じ結果ではありません。個人差があります
- 持病のある方、妊娠中・授乳中の方などは、必ず医師にご相談ください
ファスティングは、我慢や根性で乗り切るものではありません。体のしくみに沿って行えば、無理なく続けられる習慣です。
原理を知っておくと、迷ったときに自分で判断できるようになります。まずは16時間から、ご自身の体調を確かめながら始めてみてください。
本記事は、ファスティングに関する一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイス、診断、治療を提供するものではありません。効果や体感には個人差があります。実践される際は、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。体調不良を感じた場合は直ちに中止し、必要に応じて医療機関を受診してください。
参考文献
- Anton SD, Moehl K, Donahoo WT, et al. Flipping the Metabolic Switch: Understanding and Applying the Health Benefits of Fasting. Obesity. 2018;26(2):254-268.
- Mattson MP, Moehl K, Ghena N, et al. Intermittent metabolic switching, neuroplasticity and brain health. Nature Reviews Neuroscience. 2018;19:81-94.
- Lowe DA, Wu N, Rohdin-Bibby L, et al. Effects of Time-Restricted Eating on Weight Loss and Other Metabolic Parameters in Women and Men With Overweight and Obesity: The TREAT Randomized Clinical Trial. JAMA Internal Medicine. 2020;180(11):1491-1499.
- Sutton EF, Beyl R, Early KS, et al. Early Time-Restricted Feeding Improves Insulin Sensitivity, Blood Pressure, and Oxidative Stress even without Weight Loss in Men with Prediabetes. Cell Metabolism. 2018;27(6):1212-1221.
- Gabel K, Hoddy KK, Haggerty N, et al. Effects of 8-hour time restricted feeding on body weight and metabolic disease risk factors in obese adults. Nutrition and Healthy Aging. 2018;4(4):345-353.
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