16時間ファスティングは、裏返せば「8時間の中で食べる」ということです。
この「8時間」という枠が、実はとても大きな意味を持っています。何を食べるかを変えなくても、枠を決めるだけで結果が変わってくるからです。
この記事では、その理由をご説明します。まずは、ご自身の枠を数えるところから始めましょう。
昨日、いちばん最初に口にしたのは何時でしたか。朝食でなくても構いません。コーヒー、ジュース、飴。カロリーのあるものなら何でも。
そして、いちばん最後に口にしたのは何時でしたか。
その差が、あなたの食事枠です。朝7時のコーヒーから夜10時の晩酌まで、なら15時間になります。
この数字を覚えておいてください。読み進めると、意味が分かります。
- ある研究では、参加者の半数が15時間近い枠で食べていた
- そもそも日本で1日3食が定着したのは、江戸時代から
- 枠を決めるだけで、意図せず食べる量が減るという報告がある
- 減る量は、枠の長さによってだいたい決まっている
そもそも、なぜ「枠」に注目するのか
ファスティングというと「16時間食べない」という部分に目が行きます。
ただ、研究の世界ではむしろ逆側——つまり「何時間の中で食べているか」に注目してきました。
1日の食事を、一定の時間枠の中に収める方法です。研究では4〜10時間の枠がよく使われます。
16時間ファスティングなら、食事枠は8時間。「16時間食べない」も「8時間の中で食べる」も、同じことを別の側から言っているだけです。
なぜ枠のほうを見るかというと、そちらのほうが実行しやすいからです。
「食べない時間」を意識すると我慢の話になります。でも「食べる時間」を決めるなら、ただのスケジュールになります。同じことなのに、感じ方が変わる。
研究者が驚いたのは、「誰も調べていなかった」こと
この分野には、面白い経緯があります。
米ソーク研究所のパンダ博士は、マウスの実験で「食べる時間を制限すると健康に良い」という結果を得ていました。それを人間にも当てはめられるのではないか、と考えたのです。
ところが、周囲からはこう言われたそうです。
「人間はもともと1日3食を10〜12時間の間に食べている。すでに時間は制限されているのだから、わざわざ制限する意味はない」
言われてみれば、そのとおりに思えます。朝7時、昼12時、夜7時。たしかに12時間の枠に収まっています。
そこで博士は、その前提が本当なのか確かめようとしました。ところが——
パンダ博士はこう述べています。「驚いたことに、人がいつ食べているのかを調べた、説得力のある論文を見つけることができなかった」
栄養調査の多くは「朝食・昼食・夕食・間食」について尋ねる形式でした。つまり最初から「1日3食+間食」という枠組みを前提にした質問ばかりで、実際に何時に何を口にしているかを先入観なく記録したデータが、ほとんどなかったのです。
Salk Institute プレスリリース(2015)
「1日3食」は、調べた結果ではなく、みんなが前提にしていただけでした。
そこで博士たちは、口にしたものを写真で記録するスマホアプリを作るところから始めました。
本当に、1日3食で食べているのか
交代勤務のない健康な成人150人以上が、約3週間このアプリを使いました。
・参加者の半数が、1日14.75時間以上の枠で何かを口にしていた
・1日の摂取カロリーのうち、正午までに食べていたのは25%未満
・午後6時以降に35%以上を食べていた
・食事のタイミングは日によってばらつきがあり、規則的ではなかった
Gill S, Panda S. Cell Metabolism. 2015;22(5):789-798.
研究チームは論文の図に、こう見出しを付けています。
「Human Eating Lacks 3-Meals-a-Day Structure」——人間の食事に、1日3食という構造は見られない。
何かを口にしていた
ただし、この研究の参加者は米国在住の成人150人ほどです。日本人にそのまま当てはまるとは限りません。ご自身の枠を数えてみて想像より短ければ、それに越したことはありません。
写真の背景が、多くを語っていた
この研究には、印象的なエピソードがあります。
研究者のギル氏は、参加者が撮影した写真についてこう振り返っています。写真がどこで撮られたかが、多くを物語っていたと。
キーボードの横で。ベッドの中で。テレビを見ながら。歩道で。車の中で。ガソリンを入れながら。
座って食卓に向かう場面ばかりではありませんでした。
私たちは食事の回数を聞かれると、朝食・昼食・夕食を数えます。でも実際には、「食事」と認識していない場面でも、何かを口にしています。
日本で1日3食になったのは、江戸時代から
「1日3食が基本」という考え方自体、実はそれほど古いものではありません。
日本では古代から中世まで、朝夕の1日2食が基本でした。1日3食が庶民にまで定着したのは、江戸時代の中期以降とされています。
きっかけの一説として挙げられるのが、1657年の明暦の大火です。焼失した江戸を復興するため、幕府は全国から大工や職人を集めて朝から夕方まで働かせました。朝夕2食では体力が持たないため、昼にも食事を出すようになった——というものです。
『日本大百科全書』ほか
ヨーロッパでも事情は似ていて、1日3回食べるようになったのはわずか400年ほど前からだと言われています。
つまり「1日3食」は、人類が長く続けてきた習慣ではありません。働き方が変わったから、食事の回数が変わった。そういう順番です。
この話を知ったとき、少し気が楽になりました。
「1日3食きちんと食べなければいけない」と思っていると、朝食を抜くことに罪悪感が生まれます。でも、そのルール自体が数百年前にできたものだと知ると、絶対視しなくてもいいのかなと思えてきます。
もちろん、3食が合っている方はそのままで構いません。ただ、それだけが正解というわけでもない。そのくらいの距離感がちょうどいいと思っています。
枠を決めるだけで、食べる量が減っていく
ここからが本題です。
先ほどの研究では、記録するだけでなく、実際に枠を狭めてもらう試みも行われました。
14時間以上の枠で食べていた過体重の参加者に、1日10〜11時間の枠に収めてもらったところ——
16週間後、体重が減少し、活力を感じるようになり、睡眠が改善したと報告されました。そしてその効果は、1年後も続いていました。
Gill S, Panda S. Cell Metabolism. 2015;22(5):789-798.
ここで大事なのは、何を食べるかは一切指示していないことです。
カロリー計算も、食材の制限も、運動指導もありません。伝えたのは「食べる時間を10〜11時間に収めてください」という一点だけでした。
どれくらい減るのか、数字で見る
その後、多くの試験が行われ、枠の長さと減少量の関係が見えてきました。
| 食事枠 | 1日あたりの減少 | 2ヶ月での体重減 |
|---|---|---|
| 4〜6時間 | 約500〜550kcal | 約3% |
| 8時間 | 約350〜400kcal | 約2.5% |
| 10時間 | 約200kcal | 約1.5% |
Ezpeleta M, et al. Cell Metabolism. 2024 のレビューより
16時間ファスティング(=8時間枠)なら、1日あたり350〜400kcal。おにぎり2個ぶんくらいが、意識しないうちに減っている計算です。
枠が短いほど減少幅は大きくなりますが、短ければ良いという単純な話でもありません。続けられなければ意味がないからです。
興味深いことに、上記のレビューでは4〜6時間の枠でも8〜10時間の枠でも、続けられた人の割合は同程度だったと報告されています。
「意図せず」という部分が核心です
20〜30%減っている
多くの試験で、4〜10時間の枠を設けると意図せず摂取エネルギーが20〜30%減少し、1〜4%の体重減少が見られたと報告されています。
参加者は「減らそう」としていません。それでも減っている。この「意図せず」が、時間制限食という方法の面白いところです。
なぜ、勝手に減るのか
不思議に思われるかもしれません。時間を決めただけで、なぜ量が減るのか。
完全に解明されているわけではありませんが、いくつかの理由が考えられています。
理由1|食べる回数そのものが減る
ある報告では、時間制限食によって食べる回数が約22%減ったとされています。
15時間の枠が10時間になれば、その5時間ぶんに入っていた飲み物や間食が、単純になくなります。1回ずつは小さくても、積み上がると無視できません。
理由2|まとめて食べるには、限界がある
「食べる時間が短いなら、その分たくさん食べればいい」——理屈ではそうなります。
ところが、そうはなりません。胃には物理的な限界があり、短時間に大量に詰め込むのは難しいからです。
15時間かけてだらだら食べれば、驚くほどの量が入ります。でも8時間に凝縮しようとすると、途中で入らなくなる。時間の制限が、そのまま量の制限として働きます。
理由3|「なんとなく食べ」が減る
先ほどの写真の話を思い出してください。キーボードの横、車の中、ガソリンスタンド。
あれは空腹だから食べているというより、そこに食べ物があったから食べている場面が多いはずです。
枠を決めると、この「なんとなく」が減ります。我慢するのではなく、枠の外だから手が伸びない。意志力を使わずに済むのが、この方法の利点です。
ただし、すべての研究が同じ結果ではありません
ここまで肯定的な話が続きましたが、正直にお伝えしておくべきことがあります。
2020年に『JAMA Internal Medicine』に発表されたTREAT試験では、過体重・肥満の成人116名を対象に16:8を12週間行いましたが、体重や腹囲について有意な効果は認められませんでした。
(Lowe DA, et al. JAMA Intern Med. 2020;180(11):1491-1499.)
多くの試験で摂取量の減少が確認されている一方、こうした報告もあります。
体感や結果には個人差があり、誰にでも同じ変化が起きるわけではありません。私たちは「必ず痩せます」とは申し上げられません。
カロリー制限とは、何が違うのか
「結局カロリーが減っているなら、普通のダイエットと同じでは?」
もっともな疑問です。結果として摂取量が減っているのは、そのとおりです。
違うのは、そこに至る道筋です。
| カロリー制限 | 時間制限食 | |
|---|---|---|
| やること | 量と内容を管理する | 時間を決める |
| 必要な知識 | カロリー、栄養素、食品成分 | 時計を見るだけ |
| 判断の回数 | 食事のたび、毎回 | 1日1回(開始と終了) |
| 記録 | 必要なことが多い | 不要 |
| 外食 | 計算が難しい | 枠の中なら問題なし |
研究者は、時間制限食が広まった理由をこう指摘しています。その手軽さと、体重を減らすためにカロリーを数える必要がないこと。
どちらが優れているという話ではありません。続けられるほうが、その人にとっての正解です。
ダイエットが続かない理由の多くは、覚えることと判断することが多すぎるからだと思っています。
これは食べていい、これはダメ。カロリーを計算して、糖質を数えて、たんぱく質は足りているか確認して——。判断の回数が多いほど、疲れて続きません。
その点、時間制限食のルールは1つです。「この枠の中で食べる」。それ以外に決めることがない。
私が続けられている理由も、たぶんそこだと思います。
ただし、枠の中なら何でもいいわけではありません
誤解のないようお伝えしておくと、時間内なら何をどれだけ食べてもいい、という方法ではありません。
枠の中で極端に偏った食事をすれば、当然そのぶんの影響はあります。「時間を守れば何でもいい」ではなく、「時間を守ると、自然と量が整いやすい」という理解が正確です。
実践するなら、まず何時間から?
表を見ると「短いほうが効きそうだ」と思われるかもしれません。
ただ、いきなり4〜6時間を目指すのはおすすめしません。
記事の最初に数えていただいた、ご自身の枠を思い出してください。それを基準に、少しずつ縮めていくのが現実的です。
| いまの枠 | 次の目標 |
|---|---|
| 15時間以上 | まず12時間に収める |
| 12時間 | 10時間へ(例:8時〜18時) |
| 10時間 | 8時間へ(例:12時〜20時)=16時間ファスティング |
いまが15時間なら、12時間に収めるだけで3時間の短縮です。これだけでも変化としては十分あります。
朝7時に何か口にしているなら、夜7時までに食べ終える。そう考えると、難しい話ではありません。
ファスティングの時間の考え方については、こちらで詳しく解説しています。
▶ なぜ12時間なのか|ファスティングの代謝スイッチと「700kcalの貯金」
始める前に、必ずご確認ください
摂取量が減るということは、栄養が不足するリスクもあるということです。
以下に該当する方は、必ず事前に医師にご相談ください。
持病・服薬:糖尿病で治療中の方、高血圧で降圧薬を服用している方、利尿薬・精神科の薬(SSRI/SNRIなど)・片頭痛治療薬を服用している方、その他服薬中の方全般
年齢・体格:妊娠中・授乳中の方、未成年・10代の成長期の方、65歳以上の方、痩せ型の方(BMI 18.5未満)
その他:摂食障害の既往がある方、高齢で体力が落ちている方
特に摂食障害の既往がある方は、食事を制限する行為そのものが引き金になる可能性があります。自己判断では行わないでください。
また、体重が減ることを目的にしすぎると、枠をどんどん短くしたくなります。それは危険な方向です。短ければ短いほど良い、という方法ではありません。
よくあるご質問
カロリー計算はしなくていいのですか?
時間制限食では、基本的に必要ありません。研究でも、量を指示せずに時間だけを決めた結果、意図せず摂取量が減ったことが確認されています。
枠の中なら何を食べてもいいですか?
「何でもいい」というわけではありません。極端に偏った食事をすれば影響はあります。時間を守ることで量が整いやすくなる、という理解が正確です。
短い枠のほうが効果は高いですか?
数字の上では、枠が短いほど減少幅は大きくなります。ただし続けられなければ意味がありません。まずは12時間から始めることをおすすめします。
飲み物も枠に含まれますか?
カロリーのあるものは含まれます。砂糖入りのコーヒーやジュースは食事と同じ扱いです。水・お茶・ブラックコーヒーは含めなくて構いません。
自分が何時間食べているか分かりません。
3日ほど、口にしたものの時刻をメモしてみてください。多くの方が、想像より長いことに気づかれます。
やっても痩せませんでした。
すべての研究で効果が確認されているわけではありません。個人差があります。ただし体重が減らなくても、血圧や血糖が改善した試験もあります。
まとめ
- 16時間ファスティングは、「8時間の枠で食べる」と言い換えられます
- ある研究では、参加者の半数が15時間近い枠で何かを口にしていました
- 「1日3食」は調べた結果ではなく、みんなが前提にしていただけでした
- 日本で1日3食が定着したのも、江戸時代からです
- 枠を決めるだけで意図せず摂取量が20〜30%減るという報告があります
- 8時間枠なら、1日あたり350〜400kcalの減少(おにぎり2個ぶん程度)
- ただし、すべての研究が同じ結果ではありません
時間制限食の続けやすさは、ルールが1つしかないことにあります。何を食べるかではなく、いつ食べるか。判断すべきことが少ないほど、習慣は定着します。
記事の最初に数えていただいた、ご自身の枠。そこから1時間だけ縮めてみる。始めるなら、それで十分です。
ファスティングの原理全体については、こちらでまとめています。
▶ ファスティングの原理を3つで解説|体の中で何が起きているのか
夜の食事と体内時計の関係については、こちらをご覧ください。
本記事は、ファスティングに関する一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイス、診断、治療を提供するものではありません。効果や体感には個人差があります。実践される際は、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。体調不良を感じた場合は直ちに中止し、必要に応じて医療機関を受診してください。
参考文献
- Gill S, Panda S. A Smartphone App Reveals Erratic Diurnal Eating Patterns in Humans that Can Be Modulated for Health Benefits. Cell Metabolism. 2015;22(5):789-798.
- Ezpeleta M, Cienfuegos S, Lin S, et al. Time-restricted eating: Watching the clock to treat obesity. Cell Metabolism. 2024;36(2):301-314.
- Cienfuegos S, Gabel K, Kalam F, et al. Effects of 4- and 6-h Time-Restricted Feeding on Weight and Cardiometabolic Health: A Randomized Controlled Trial in Adults with Obesity. Cell Metabolism. 2020;32(3):366-378.e3.
- Lowe DA, Wu N, Rohdin-Bibby L, et al. Effects of Time-Restricted Eating on Weight Loss and Other Metabolic Parameters in Women and Men With Overweight and Obesity: The TREAT Randomized Clinical Trial. JAMA Internal Medicine. 2020;180(11):1491-1499.
- 小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』「食事」
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