同じおにぎりを、朝8時に食べたときと、夜10時に食べたとき。
入ってくるカロリーも糖質も、まったく同じです。ところが体の反応は、同じではありません。
この記事では、その理由を「インスリン」というホルモンから解き明かします。ファスティングが体重を減らすだけの方法ではない、という話にもつながります。
- インスリンには「血糖を下げる」以外に、もうひとつの顔がある
- 同じ食事でも、夜に食べると血糖が17%高くなるという研究がある
- それが「夜食べると太る」と言われる理由につながる
- 体重がまったく減らなくても、血圧や血糖が改善した試験がある
- 夜に甘いものが欲しくなるのは、意志の問題ではない
インスリンの、知られていないほうの仕事
インスリンと聞くと、多くの方が「血糖値を下げるホルモン」と思われるはずです。それは正しいのですが、説明の半分にすぎません。
膵臓から分泌されるホルモンです。食事をして血糖値が上がると分泌され、血液中の糖を細胞に取り込ませます。その結果、血糖値が下がります。
ここまでが、よく知られている話です。
取り込んだ糖は、どこへ行くのか
細胞に取り込まれた糖は、まずエネルギーとして使われます。次に、肝臓や筋肉にグリコーゲンとして貯金されます。
それでも余ったら、どうなるか。
脂肪に変えて蓄えられます。そして、この「脂肪に変えて蓄える」という指示を出しているのも、インスリンです。
「脂肪をためるモード」にある
つまりインスリンは、血糖を下げると同時に脂肪の蓄積を進め、脂肪の分解にブレーキをかけるホルモンでもあります。
1日3食+間食だと、何が起きるか
ここで、1日のインスリンの動きを想像してみてください。
朝7時に朝食。インスリンが出る。10時におやつ。また出る。12時に昼食。また出る。15時にコーヒーと甘いもの。また出る。19時に夕食。また出る。
インスリンが下がりきる時間が、ほとんどありません。
脂肪をためるモードのまま1日が終わり、寝て、また朝食で同じことが始まる。脂肪を使う時間が、日常の中に存在しないのです。
ファスティングがやっていることは、突き詰めればシンプルです。インスリンが下がりきる時間を、1日の中に作る。それだけです。
同じ食事でも、夜に食べると血糖が17%高くなる
ここから、少し驚く話が続きます。
体には「糖を処理しやすい時間帯」がある
インスリンの効きやすさは、1日の中で一定ではありません。
ヒトにおいて、耐糖能(糖を処理する能力)と全身のインスリン感受性は、朝より夕方・夜のほうが低くなります。
同じ組成の食事を1日の異なる時間に摂った試験でも、食後の血糖値は朝より夕方のほうが高くなることが示されています。
Speksnijder EM, et al. Journal of Pineal Research. 2024
インスリンの「効きやすさ」のことです。感受性が高いと、少ないインスリンで血糖がしっかり下がります。感受性が低いと、たくさんインスリンを出さないと下がりません。
感受性が低い状態が続くことを「インスリン抵抗性」と呼びます。
生活習慣ではなく、体内時計が原因だった
「夜のほうが血糖が上がるのは、単に夜は動かないからでは?」と思われるかもしれません。
それを検証した、なかなか手の込んだ研究があります。
ハーバード大学の研究チームは、健康な被験者に、まず朝8時に朝食・夜8時に夕食をとって夜に眠る生活をしてもらいました。
次に、試験の後半では順番を完全に逆転させます。同じ朝食を夜8時に、同じ夕食を朝8時に食べ、睡眠は昼間にとる。
結果、いつ寝ていつ食べたかにかかわらず、体内時計の「夜」にあたる時間帯では、血糖値が17%高くなりました。
Morris CJ, et al. PNAS. 2015;112(17):E2225-E2234.
つまり、生活リズムを入れ替えても結果は変わらなかった。血糖の上がりやすさは、体内時計そのものに組み込まれているということです。
血糖が高いと、なぜ太りやすいのか
ここで、最初の話につながります。
血糖値が高く上がるということは、それを下げるためにインスリンが多く分泌されるということです。
そしてインスリンが出ている間、体は脂肪をためるモードにある。冒頭でお伝えしたとおりです。
↓
インスリンが多く出る
↓
脂肪をためるモードが長く続く
さらに、夜の食事にはもうひとつ不利な点があります。そのまま寝てしまうことです。
昼に食べれば、その後の活動でエネルギーが使われます。ところが夜遅くに食べると、消費される機会がないまま眠りにつくことになります。
血糖が上がりやすい時間帯に食べ、そのまま動かない。2つが重なるのが、夜の食事です。
なぜ、そんな仕組みになっているのか
進化の観点から考えると、理屈は通ります。
人間は本来、昼に活動して夜に休む生き物です。糖がいちばん必要なのは、動き回っている日中。だから体は、日中に糖を効率よく処理できるようにできています。
夜は休む時間なので、糖を大量に処理する必要がない。夜間に糖の処理能力が落ちるのは、生理的にはむしろ自然な設計なのです。
問題は、私たちの生活が設計とずれてきたことです。夜遅くの食事、深夜のコンビニ、寝る前のスマホ。体はまだ、昼行性の設計のままです。
この話を知ってから、私は夕食の時間を意識するようになりました。
何を食べるかより、何時に食べるか。同じものでも体の反応が変わるなら、変えやすいのは時間のほうです。
それに、夕食を早めると翌日にも効いてきます。20時に食べ終えれば、16時間後は正午。ごく普通のランチタイムに食事を再開できる計算です。21時だと13時になり、少し遅い昼食になってしまう。
たった1時間ですが、翌日の過ごしやすさがずいぶん変わります。
体重が減らなくても、血圧と血糖が改善した
この記事でいちばんご紹介したいのが、この研究です。
ファスティングを行うと、血圧や血糖値が改善したという報告が数多くあります。ただ、そうした試験ではたいてい体重も一緒に減っています。
すると、こういう疑問が残ります。改善したのは、体重が減ったからなのか。それとも、食べる時間を変えたこと自体に意味があるのか。
どちらなのかは、長らく分かっていませんでした。それを確かめるために、非常に手間のかかる試験が行われました。
前糖尿病の男性を対象に、体重が変わらないよう十分な食事量を与えたうえで、時間制限食を行う試験が実施されました(監視下の管理給食試験)。
片方のグループは6時間の食事枠(夕食は午後3時前まで)、もう片方は12時間の食事枠。5週間後に入れ替えるクロスオーバー方式です。
結果、6時間枠のグループではインスリン感受性、β細胞の反応性、血圧、酸化ストレス、食欲のすべてが改善しました。体重は減っていないにもかかわらず、です。
Sutton EF, et al. Cell Metabolism. 2018;27(6):1212-1221.
研究者たちはこう結論づけています。ヒトにおいて、間欠的ファスティングの効果は体重減少だけによるものではないことが、初めて示されたと。
体の中では変化が起きている
この研究が特別な理由
ファスティングの研究では、たいてい体重が減ります。すると「改善したのは体重が減ったからでは?」という疑問が、どうしても残ります。
この試験は、あえて体重を減らさないように食事量を管理することで、その疑問を潰しました。参加者に必要な量をきっちり食べさせながら、時間だけを制限したのです。
体重という要因を取り除いても改善が起きた。つまり「食べる時間」そのものに意味があるということになります。
ただし、この試験の参加者は前糖尿病の男性であり、対象は限られています。すべての人に同じ結果が出るとは限りません。また6時間枠・夕食は午後3時前という条件は、日常生活ではかなり厳しい設定です。
夜に甘いものが欲しくなるのは、意志の問題ではない
夜遅く、お菓子に手が伸びる。「また食べてしまった」と自己嫌悪になる。
あれは、意志が弱いからではありません。
血糖のジェットコースター
糖質の多い食事をとると、血糖値が急上昇します。すると体は慌てて大量のインスリンを出し、今度は急降下します。
この急降下したタイミングで、体は「エネルギーが足りない」と判断します。そして強く糖を求めます。甘いものへの渇望は、この反応です。
しかも先ほど見たとおり、夜は血糖が上がりやすい時間帯です。夜に甘いものを食べれば、より大きく上がり、より大きく落ちる。そしてまた欲しくなる。
血糖が安定すると、欲求そのものが変わる
ファスティングでインスリンの効きが改善してくると、この波が小さくなっていきます。
実際、時間制限食を行った方から「間食したくなくなった」「甘いものを前ほど欲しくなくなった」という報告が多く挙がっています(個人差はあります)。
先ほどのSuttonらの試験でも、食欲の改善が確認されています。
我慢して食べないのではなく、欲しくならない。順番が逆になるのが、この話の面白いところです。
実践に落とすと、どうなるか
ここまでの内容を、行動に変換します。
| 分かったこと | 実践すること |
|---|---|
| インスリンが出ている間は 脂肪をためるモード |
間食を減らす |
| 夜は血糖が上がりやすい | 夕食を早める |
| 体内時計に組み込まれている | 毎日同じ時間帯に食べる |
| 体重が減らなくても改善はある | 体重計だけで判断しない |
いちばん現実的なのは「夕食を1時間早める」
6時間枠・午後3時までに夕食、というのは、日本で働きながらではまず不可能です。
そこで現実的なのは、いまの夕食を1時間早めること。21時が20時になるだけでも、
- 夜間の血糖上昇が起きる時間が前倒しになる
- 就寝までにインスリンが下がりきる余裕ができる
- 翌日の16時間ファスティングの終了時刻が1時間早まる(=昼食が普通の時間になる)
3つが同時に改善します。1時間の前倒しは、思っている以上に効きます。
ファスティングの時間の考え方については、こちらで詳しく解説しています。
▶ なぜ12時間なのか|ファスティングの代謝スイッチと「700kcalの貯金」
始める前に、必ずご確認ください
血糖やインスリンに関わる話である以上、該当する方には特に注意が必要です。
糖尿病で治療を受けている方(特にインスリンや血糖降下薬を使用中の方)は、必ず主治医にご相談ください。ファスティングによって低血糖を起こす危険があります。自己判断で行わないでください。
そのほか、高血圧で降圧薬を服用している方、利尿薬・精神科の薬・片頭痛治療薬を服用している方、妊娠中・授乳中の方、未成年の方、65歳以上の方、痩せ型の方(BMI 18.5未満)、摂食障害の既往がある方も、事前に医師にご相談ください。
また、冷や汗、手足の震え、強い空腹感、動悸、めまいといった低血糖の症状が出た場合は、その時点で中止し、水分と少量の糖分を補給して休息をとってください。
インスリンとファスティングに関するよくあるご質問
夜に食べると太る、というのは本当ですか?
同じ食事でも夜のほうが血糖値が上がりやすいことは、複数の研究で示されています。体内時計によるもので、活動量の差だけでは説明できないことも分かっています。
体重が減らないと意味がないのでしょうか?
そうとは限りません。体重を維持したまま行った試験でも、インスリン感受性や血圧の改善が確認されています。ただし対象は限られた集団なので、誰にでも同じ結果が出るわけではありません。
間食は完全にやめるべきですか?
完全にやめる必要はありませんが、回数が多いほどインスリンが下がる時間は減ります。まずは「食べる時間帯を決める」ところから始めるのが現実的です。
夕食は何時までに終えるのが理想ですか?
研究では早いほど良い傾向が示されていますが、生活に合わないと続きません。まずは今の夕食を1時間早めることをおすすめします。
甘いものがやめられません。
血糖の急上昇と急降下が渇望を生んでいる可能性があります。意志の問題として捉えるより、血糖の波を小さくするほうが現実的です。
糖尿病ですが、やってもいいですか?
自己判断では行わないでください。低血糖のリスクがあります。必ず主治医にご相談のうえ、指示に従ってください。
まとめ
- インスリンは血糖を下げると同時に、脂肪をためるモードを作るホルモンです
- 1日3食+間食では、インスリンが下がりきる時間がほとんどありません
- 同じ食事でも、体内時計の「夜」では血糖が17%高くなるという研究があります
- これは活動量ではなく、体内時計に組み込まれた仕組みです
- 血糖が高く上がる → インスリンが多く出る → 脂肪をためるモードが長く続く
- 体重が減らなくても、血圧・血糖・酸化ストレスが改善した試験があります
- 夜に甘いものが欲しくなるのは、血糖の急降下による反応です
- 実践するなら、まず夕食を1時間早めるところから
ファスティングは、体重を減らすためだけの方法ではありません。食べる時間を整えることで、体の反応そのものが変わっていく。そう捉えるほうが、続けやすいと思います。
ファスティングの原理全体については、こちらでまとめています。
▶ ファスティングの原理を3つで解説|体の中で何が起きているのか
ファスティング中に飲んでいいものについては、こちらをご覧ください。
▶ ファスティング中に飲んでいいものは?酵素ドリンクは必要か
本記事は、ファスティングに関する一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイス、診断、治療を提供するものではありません。効果や体感には個人差があります。実践される際は、ご自身の判断と責任のもとで行ってください。体調不良を感じた場合は直ちに中止し、必要に応じて医療機関を受診してください。
参考文献
- Sutton EF, Beyl R, Early KS, Cefalu WT, Ravussin E, Peterson CM. Early Time-Restricted Feeding Improves Insulin Sensitivity, Blood Pressure, and Oxidative Stress Even without Weight Loss in Men with Prediabetes. Cell Metabolism. 2018;27(6):1212-1221.e3.
- Speksnijder EM, Bisschop PH, Siegelaar SE, et al. Circadian desynchrony and glucose metabolism. Journal of Pineal Research. 2024;76(4):e12956.
- Morris CJ, Yang JN, Garcia JI, et al. Endogenous circadian system and circadian misalignment impact glucose tolerance via separate mechanisms in humans. PNAS. 2015;112(17):E2225-E2234.
- Anton SD, Moehl K, Donahoo WT, et al. Flipping the Metabolic Switch: Understanding and Applying the Health Benefits of Fasting. Obesity. 2018;26(2):254-268.
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