前回は、2020年の実験をお伝えしました。減った体重の65%が脂肪以外だった、という数字が広まっていることも確かめました。
ただ、まだ手をつけていない問いが残っています。その「脂肪以外」とは、本当に筋肉のことなのでしょうか。
今回は、10日間まったく食べなかった13人の記録から始めます。全3回の第2回です。
- 10日間の完全断食で、脂肪以外の重さは9.2%減った
- ところが回復食のあと、その9.2%は元どおりに戻っていた
- 同じ時期に、体の水分も同じだけ減り、同じように戻っていた
- 除脂肪量のうち、骨格筋はおよそ半分しかない
- 28本の試験をまとめると、ふつうの減量との差は0.20kgだった
- その0.20kgも、水分の差である可能性が残っている
10日間、まったく食べなかった13人
研究施設に泊まり込んで行われた記録
中国の研究チームが、13人の男性を対象に10日間の完全断食を実施しました。口にしてよいものは水だけです。参加者は研究用の施設に滞在し、医師の監視のもとで毎日検査を受けています。
募集に応じた60人のうち、年齢・体格・持病などの条件を満たした13人が参加しました。平均年齢は39.6歳です。10日間の断食のあと、4日かけて少量ずつ食事を戻し、さらに5日かけて通常の食事に復帰しています。
Dai Z, et al. Nutrients. 2022;14(18):3860.体重は、最初の3日で一気に減った
10日間で、参加者の体重は平均7.28kg減りました。ただし、毎日同じペースで減ったわけではありません。
| 時期 | 1日あたりの体重の減り方 |
|---|---|
| 最初の3日間 | 約1.20kg |
| 10日目 | 0.28kg |
最初の3日間で急激に減り、そのあとは減り方がゆるやかになりました。
ここで、ひとつ確かめておきたいことがあります。人間の体脂肪が、3日間で3.6kgも燃えることはありません。では、最初の3日で減ったものは何だったのでしょうか。答えは、この記事の後半で出てきます。
減った「脂肪以外」は、戻ってきた
体の中身を測ったのは、3回だけ
この研究でも、体の中身の測定は限られた回数しか行われていません。実施されたのは、断食前・断食6日目・回復を終えた5日目の3回です。X線を使う機械のため、被曝を抑える目的で回数が絞られました。
体重は毎日測れます。しかし、脂肪と脂肪以外の割合は毎日は測れません。この点は前回と同じです。
脂肪と脂肪以外で、動き方が違った
| 断食6日目 | 回復を終えた5日目 | |
|---|---|---|
| 脂肪の量 | −10.7% | −17.2% |
| 脂肪以外の量 | −9.2% | ほぼ元どおり |
脂肪は減り続けました。断食が終わったあとも、さらに減っています。
一方、脂肪以外は違う動きをしました。断食中に9.2%減ったあと、回復食を食べているあいだに、断食前とほぼ同じ量まで戻っています。
筋肉が10日間で9%落ち、そのあと5日間で全部戻る。そのようなことは起こりません。
戻ってきたものの正体
体の水分が、まったく同じ動きをしていた
この研究では、体の水分量も同じタイミングで測られています。その結果を並べると、答えが見えてきます。
脂肪以外の減り方と、水分の減り方は、ほぼ同じ大きさでした。そして、どちらも回復食のあとに元どおりへ戻っています。減ったタイミングも、戻ったタイミングも一致しました。
つまり、減っていたものの多くは水分でした。
なぜ、食べないと水分が減るのか
体は糖を、グリコーゲンという形にして蓄えています。このグリコーゲンには水がくっついた状態で貯蔵されます。
食べない時間が続くと、体はグリコーゲンを使います。グリコーゲンが減れば、それにくっついていた水も一緒に出ていきます。
これが、断食の前半で体重が急に落ちる理由です。最初の3日間で1日1.20kgという数字の正体は、脂肪ではありませんでした。
体重から脂肪を引いた、残りのすべてを指します。体組成計が「筋肉量」として表示する数字は、多くの場合これに近いものです。
含まれるのは筋肉だけではありません。水分、骨、内臓、血液も、すべてこの中に入っています。
そもそも、除脂肪量の半分は筋肉ではない
骨格筋は、除脂肪量のおよそ48%
除脂肪量が1kg減ったとしても、筋肉が1kg減ったわけではありません。
そして、その大半は水分でできている
骨格筋も、内臓も、骨も、中身の多くは水分です。除脂肪量の全体で見ると、およそ73%が水分にあたります。
ここが重要なところです。体組成計は、この73%を前提にして計算しています。だから水分が減れば、表示される筋肉量も下がります。
脂肪が減れば、除脂肪量も必ず減る
ここが、いちばん見落とされやすいところです。
脂肪組織は、脂肪だけでできているわけではありません。水分とたんぱく質でできた部分が、15〜20%含まれています。
脂肪組織が減れば、その中にあった水分とたんぱく質も一緒に減ります。そして、それは除脂肪量の減少として計上されます。
脂肪が落ちれば、除脂肪量も必ず落ちます。これは避けようがありません。
骨格筋 0.9kg(60%)/腎臓・心臓・肝臓 0.1kg(7%)/脂肪組織の水分やたんぱく質など 0.5kg(33%)
Tinsley GM, Heymsfield SB. J Endocr Soc. 2024;8(11):bvae164.この違いを整理したのは、前回の3人のうちの1人だった
この論文の筆頭著者は、Tinsley という研究者です。前回の記事に登場しました。2020年の実験に反論のレターを寄せた3人のうちの1人であり、体の中身を測る技術を専門にしています。
その人が2024年に、除脂肪量とは何を指すのか、筋肉とはどう違うのかを、あらためて論文にまとめました。前回と今回、2本の論文は同じ問題意識でつながっています。
では、ふつうのダイエットなら除脂肪量は減らないのか
減ります。通常のカロリー制限による減量では、減った体重の6〜38%が除脂肪量にあたると報告されています。
幅が広いことに気づいたでしょうか。この幅は、個人差です。同じように痩せても、除脂肪量がほとんど減らない人もいれば、4割近く減る人もいます。
いずれにせよ、はっきりしていることがひとつあります。体重を減らせば、除脂肪量もある程度は必ず減ります。ファスティングだけに起きる現象ではありません。
28本の試験を並べると、どうなるか
ようやく、比べられる数字が出てくる
2024年に発表された報告が、この問いに答えています。研究チームは、ファスティング系のダイエットとふつうのカロリー制限を比べた試験を28本集め、まとめて計算しました。
集められた28本の内訳は、食べる時間を区切る方法が7本、1日おきに食べない方法が10本、週2日だけ減らす方法が11本です。期間は2週間から52週間まで幅があります。
Schroor MM, et al. Adv Nutr. 2024;15(1):100130.結果は、どちらの立場も外していた
| 比べた項目 | ファスティング側とカロリー制限側の差 |
|---|---|
| 体重 | 0.42kg(はっきりした差とは言えない) |
| 除脂肪量 | 0.20kg(ファスティング側がわずかに多く減った) |
ここが意外なところです。差はゼロではありませんでした。除脂肪量については、ファスティング側のほうがわずかに多く減っています。
ただし、その差は0.20kgです。前回の記事で見た1.10kgとは、桁が違います。
ファスティングは筋肉を削る、という批判も外れていました。ファスティングなら筋肉は減らない、という擁護も外れていました。28本を集めて出てきた答えは、200グラムでした。
その200グラムは、何だったのか
ここで、この記事の前半をもう一度思い出してください。10日間の断食で減った脂肪以外は、その多くが水分でした。
同じ疑いは、この200グラムにもかかります。測定した日に、両方のグループの体の水分が同じ状態だったとは限りません。たとえば1日おきに食べない方法であれば、断食した翌朝に測るのか、食べた翌朝に測るのかで、数字は変わります。
この点は、研究者からも指摘されています。除脂肪量は体液の分布に影響を受けるため、グループ間の差の一部は水分量の違いで説明できるかもしれない、という指摘です。前回取り上げた2020年の実験についても、測定の前に参加者の水分状態が管理されていなかった可能性が挙げられています。
この200グラムが筋肉の差なのか、水分の差なのか。現時点で、決着はついていません。
ただし、はっきりしていることがひとつあります。どちらであったとしても、差は200グラムです。
この記事で紹介した10日間の断食は、医師の監視のもと、専用の施設で行われた研究です。参加者は13人、全員が男性でした。研究者自身も、人数の少なさと男性のみという点を限界として挙げています。
期間中には腎臓の働きにわずかな低下も見られました(回復食のあとに元の値へ戻っています)。ご自身で真似をするものではありません。
ここまでで分かること
| 分かったこと | どう受け取るか |
|---|---|
| 10日間の断食で減った脂肪以外は、回復食で戻った | 筋肉であれば、5日では戻らない |
| 体の水分が、まったく同じ動きをしていた | 減っていたものの多くは水分だった |
| 骨格筋は除脂肪量の約48% | 除脂肪量1kg減=筋肉1kg減ではない |
| 除脂肪量の約73%は水分 | 体組成計はこの数値を前提に計算している |
| 脂肪組織にも水分とたんぱく質が15〜20% | 脂肪が減れば除脂肪量も必ず減る |
| ふつうのカロリー制限でも6〜38% | 減量すれば、どの方法でも減る |
| 28本を集めた差は0.20kg | 差はあるが、200グラム |
| その200グラムも水分の可能性がある | 筋肉の差と決まったわけではない |
持病のある方、薬を服用中の方、妊娠中・授乳中の方、成長期のお子さま。食事の量や回数を大きく変える前に、必ず主治医にご相談ください。
私も減量していたとき、毎日体組成計に乗っていました。筋肉量の表示が前の日より下がっていると、正直あせります。何か間違ったことをしたのだろうか、と考えてしまいます。
今回の論文を読んで、あの数字が何を測っていたのかが分かりました。水を多めに飲んだ日と、汗をかいた日とでは、表示が変わります。表示が下がったからといって、筋肉が減ったとは限りません。逆に上がったからといって、筋肉が増えたわけでもありません。
それを知ってから、私は1日ごとの上下を見るのをやめました。見るのは週単位の流れだけです。数字に振り回される時間が減った分だけ、続けやすくなったと感じています。
よくある質問
減量すれば、除脂肪量はある程度必ず減る。
それが分かったうえで、私たちにできることは何かあるのでしょうか?
次回は、筋トレをしながら減量した人たちの記録を調べます。同じだけ体重を落としても、結果が変わった人たちがいました。
そして最後に、both. がなぜ極端に長いファスティングをおすすめしないのか、その理由も書きます。
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参考文献
- Dai Z, Zhang H, Wu F, et al. Effects of 10-Day Complete Fasting on Physiological Homeostasis, Nutrition and Health Markers in Male Adults. Nutrients. 2022;14(18):3860.
- Tinsley GM, Heymsfield SB. Fundamental Body Composition Principles Provide Context for Fat-Free and Skeletal Muscle Loss With GLP-1 RA Treatments. J Endocr Soc. 2024;8(11):bvae164.
- Schroor MM, Joris PJ, Plat J, Mensink RP. Effects of Intermittent Energy Restriction Compared with Those of Continuous Energy Restriction on Body Composition and Cardiometabolic Risk Markers. Adv Nutr. 2024;15(1):100130.
- Ezpeleta M, Cienfuegos S, Lin S, et al. Time-restricted eating: Watching the clock to treat obesity. Cell Metab. 2024;36(2):301-314.
- Wang Z, Deurenberg P, Wang W, et al. Hydration of fat-free body mass: review and critique of a classic body-composition constant. Am J Clin Nutr. 1999;69(5):833-841.
- Chaston TB, Dixon JB, O'Brien PE. Changes in fat-free mass during significant weight loss: a systematic review. Int J Obes. 2007;31(5):743-750.
- Lowe DA, Wu N, Rohdin-Bibby L, et al. Effects of Time-Restricted Eating on Weight Loss and Other Metabolic Parameters in Women and Men With Overweight and Obesity: The TREAT Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2020;180(11):1491-1499.
本記事は研究論文の紹介を目的とした情報提供であり、特定の食事法や商品の効果を保証するものではありません。診断・治療の代わりになるものでもありません。体調に不安のある方は、医療機関にご相談ください。
