第1回では、「筋肉が落ちる」という話の出どころをたどりました。第2回では、減った「脂肪以外」の正体が、その多くは水分だったことを確かめました。
ただ、体重を減らせば除脂肪量もある程度は減ります。これは避けようがありません。
では、そのうえで私たちにできることは何かあるのでしょうか。全3回の最終回です。
- 断食をしながら筋トレをした34人は、脂肪だけが減り、筋力も落ちなかった
- 114の試験を集めると、筋トレを含む減量では除脂肪量が保たれていた
- ただし、差が出なかった報告もある
- 「代謝が落ちるから筋トレを」という説明は、データでは支持されていない
- both. は、極端に長いファスティングをおすすめしない
筋トレをしながら16時間断食した、34人の記録
変えたのは、食べる時間だけ
イタリアの研究チームが、日常的に筋トレをしている男性34人を対象に、8週間の試験を行いました。参加者は全員、同じ内容の筋トレを続けています。
変えたのは食事の時間だけです。一方のグループは食べる時間を8時間の枠に収め、もう一方はふつうに1日3食を食べました。1日の摂取カロリーと栄養の配分は、両グループでそろえられています。
参加者は全員、少なくとも5年以上の筋トレ経験を持つ男性でした。8時間グループの食事時間は午後1時・4時・8時の3回です。残りの16時間は水以外を口にしていません。
Moro T, et al. J Transl Med. 2016;14:290.減ったのは、脂肪だけだった
| 8週間後の変化 | 8時間グループ | 1日3食グループ |
|---|---|---|
| 脂肪の量 | −16.4% | −2.8% |
| 除脂肪量 | 維持 | 維持 |
| 腕と腿の筋肉の断面積 | 維持 | 維持 |
| 最大筋力 | 維持 | 維持 |
脂肪だけが大きく減り、筋肉の太さも、持ち上げられる重さも、両グループとも変わりませんでした。
第1回で見た65%という数字を思い出してください。あの実験の参加者は、筋トレをしていませんでした。
ただし、良いことばかりではなかった
この研究には、続きがあります。8時間グループでは、テストステロンとIGF-1という2つのホルモンの値が下がりました。どちらも、筋肉を作る方向に働くホルモンです。
研究者たちは、この結果を隠していません。8週間という期間では筋肉量にも筋力にも影響が出ませんでしたが、もっと長く続けたときにどうなるのかは、この研究からは分かりません。
114の試験を集めると、どうなるか
4,184人分のデータ
2022年、研究チームが筋トレと体組成に関する試験を114本集め、まとめて計算しました。参加者は合計4,184人です。年齢も性別も幅広く含まれています。
比較されたのは、筋トレのみ・筋トレとカロリー制限の組み合わせ・有酸素運動との組み合わせ・運動なし、といった条件です。
Lopez P, et al. Obes Rev. 2022;23(5):e13428.除脂肪量の減少が、消えた
| 条件 | 除脂肪量の変化 |
|---|---|
| 筋トレ+カロリー制限 | 約 −0.3kg(統計的な差は認められず) |
| 筋トレのみ | +0.8kg |
第2回を思い出してください。ふつうのカロリー制限では、減った体重の6〜38%が除脂肪量でした。ところが筋トレを足すと、その減少が統計的に見えなくなります。
さらに、体脂肪率がもっとも大きく減ったのも、筋トレとカロリー制限を組み合わせた条件でした。脂肪はよく減り、除脂肪量は残る。この2つが同時に起きています。
ただし、差が出なかった報告もある
4週間では、変わらなかった
2020年に発表された研究では、26人が4週間、食事を25%減らしながら筋トレを行いました。食べる時間を区切ったグループと、ふつうに食べたグループを比べています。
結果は、体重・除脂肪量・脂肪量のいずれにも、グループ間の差が出ませんでした。
別の研究でも、同じような結果が報告されています。1日4時間の枠で週4日、8週間にわたって実施したところ、摂取カロリーは1日あたりおよそ650kcal減っていたにもかかわらず、体組成は変わりませんでした。
これらは、何を意味するのか
まず、期間の問題があります。4週間や8週間では、体組成の差として現れるほどの変化が起きません。
もうひとつ、参加者の問題もあります。これらの研究に参加したのは、もともと筋トレをしている人たちでした。すでに鍛えている人ほど、数週間で目に見える変化は出にくくなります。
114試験の結果と矛盾しているわけではありません。ただ、「筋トレさえすれば必ず維持できる」と言い切れるほど単純でもない、ということです。
「代謝が落ちるから筋トレを」ではなかった
よく聞く説明
筋肉が減ると代謝が落ちる。だから筋トレをしよう。この説明はよく聞きます。私自身も、そう理解していました。
ところが、測ってみると変わっていなかった
先ほどの8週間の研究では、安静時のエネルギー消費量が測定されています。結果は、期間を通じて変化なしでした。
別の研究でも、同じことが確認されています。筋トレを組み合わせたグループでは除脂肪量が保たれた一方、安静時の代謝の数値には、グループ間の差がありませんでした。
数週間から数か月という期間では、代謝の数字はそう簡単には動かないようです。
では、筋トレの価値はどこにあるのか
除脂肪量そのものです。
同じだけ体重が減っても、中身が変わります。114試験が示していたのは、まさにそこでした。代謝を持ち出さなくても、筋トレをする理由は十分に立ちます。
both. が、極端に長いファスティングを勧めない理由
私たちはファスティング向けの商品を扱っています。だからこそ、自分たちに都合の悪いことも書いておきます。
理由1:長くすれば結果が良くなる、という根拠がない
ここまで見てきたデータで、差を作っていたのは食べない時間の長さではありませんでした。筋トレをしていたかどうかです。
16時間でも、筋トレをしていた34人は脂肪だけを落としました。一方、断食の期間を延ばせば除脂肪量が保たれる、という結果は出ていません。
理由2:長期の断食を調べた研究は、日常に持ち込める設計ではない
第2回で紹介した10日間の研究を思い出してください。あれは医師の監視のもと、専用の施設で、13人の男性に対して行われたものでした。研究者自身も、人数の少なさと男性のみという点を限界として挙げています。
期間中には、腎臓の働きにわずかな低下も見られました。回復食のあとに元の値へ戻ってはいますが、毎日検査を受けられる環境だったからこそ確認できたことです。
理由3:続けられないやり方は、結局もとに戻る
どれだけ理屈が正しくても、続かなければ結果は残りません。数日食べない生活を毎月くり返せる人は、多くありません。
- 短い時間から始める
- 体を動かすことと、一緒に取り組む
- 体調がすぐれない日は、やらない
- 長く食べないことを目的にしない
私たちが扱っているのは、ファスティング中の水分と塩分の補給を想定したスープです。長く食べないことを勧めるための商品ではありません。
この記事で紹介した研究は、いずれも医師や研究者の管理下で行われたものです。同じ条件を個人で再現することはできません。
3回を通して分かったこと
| 回 | 分かったこと |
|---|---|
| 第1回 | 「筋肉が落ちる」の数字は、1本の実験から広まった。同じ医学誌に3人の研究者から反論が届いている |
| 第2回 | 減った「脂肪以外」の多くは水分だった。除脂肪量のうち骨格筋は約48%、水分は約73% |
| 第2回 | 28本を集めた差は0.20kg。ふつうの減量でも6〜38%は減る |
| 第3回 | 114試験を集めると、筋トレを含む減量では除脂肪量が保たれた |
| 第3回 | ただし短期では差が出ない。代謝の維持は確認されていない |
持病のある方、薬を服用中の方、妊娠中・授乳中の方、成長期のお子さま。食事の量や回数を大きく変える前に、必ず主治医にご相談ください。
この3回を書き始めたきっかけは、SNSで届く批判でした。正直に言えば、最初は反論するつもりで論文を読み始めました。
ところが調べていくうちに、自分の思い込みのほうが先に崩れました。いちばん大きかったのは、代謝の話です。筋肉が減ると代謝が落ちる、だから筋トレをする。私はずっとそう説明していましたが、測定された数字はそうなっていませんでした。
それでも、筋トレをする理由がなくなったわけではありません。理由が変わっただけです。私自身、減量中に続けていたのは有酸素運動と筋トレでした。あのとき代謝のことは考えていませんでしたが、結果としては間違っていなかったのだと思います。
都合の悪いデータを外して書けば、もっと単純で強い記事になったはずです。ただ、それをやると次に自分が信じられなくなります。この3回は、そうならないように書きました。
よくある質問
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参考文献
- Moro T, Tinsley G, Bianco A, et al. Effects of eight weeks of time-restricted feeding (16/8) on basal metabolism, maximal strength, body composition, inflammation, and cardiovascular risk factors in resistance-trained males. J Transl Med. 2016;14:290.
- Lopez P, Taaffe DR, Galvão DA, et al. Resistance training effectiveness on body composition and body weight outcomes in individuals with overweight and obesity across the lifespan: A systematic review and meta-analysis. Obes Rev. 2022;23(5):e13428.
- Stratton MT, Tinsley GM, Alesi MG, et al. Four Weeks of Time-Restricted Feeding Combined with Resistance Training Does Not Differentially Influence Measures of Body Composition, Muscle Performance, Resting Energy Expenditure, and Blood Biomarkers. Nutrients. 2020;12(4):1126.
- Tinsley GM, Forsse JS, Butler NK, et al. Time-restricted feeding in young men performing resistance training: A randomized controlled trial. Eur J Sport Sci. 2017;17(2):200-207.
- Dai Z, Zhang H, Wu F, et al. Effects of 10-Day Complete Fasting on Physiological Homeostasis, Nutrition and Health Markers in Male Adults. Nutrients. 2022;14(18):3860.
本記事は研究論文の紹介を目的とした情報提供であり、特定の食事法や商品の効果を保証するものではありません。診断・治療の代わりになるものでもありません。体調に不安のある方は、医療機関にご相談ください。
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