「ファスティングはやめたほうがいい。筋肉が落ちるから」
ファスティングについて発信していると、この言葉が本当によく届きます。とくに、体を鍛えることを仕事にしている方から。
では、その根拠はどこにあるのでしょうか。さかのぼっていくと、1本の論文に行き着きました。
この記事では、その論文を最後まで読みます。全3回の第1回です。
- 「ファスティングで筋肉が落ちる」の数字は、2020年に発表された1本の実験から広まった
- その実験は、痩せるための実験として設計されていなかった
- 同じ医学誌に、3人の研究者が連名で反論を寄せている
その話は、どこから来たのか
数字を挙げている投稿は、だいたい同じ数字を挙げる
SNSでファスティングへの批判を追っていくと、根拠の書かれていない投稿がほとんどです。ただ、数字を挙げている投稿は、ふしぎと一致します。
「減った体重の65%が筋肉だった」
この65%には、はっきりした出どころがあります。
2020年、アメリカの医学誌に載った実験
2020年、アメリカ医師会が発行する医学誌に、ひとつの実験結果が掲載されました。カリフォルニア大学サンフランシスコ校のグループによるものです。
参加者は116人。期間は12週間。食べる時間を1日8時間に区切るグループと、1日3食のグループに分け、体がどう変わるかを追いました。
Lowe DA, et al. JAMA Intern Med. 2020;180(11):1491-1499.100人を超える規模で、権威ある医学誌に載った実験です。批判の根拠として引かれるのは、当然といえば当然でした。
ただ、この実験の中身を読んでいくと、思っていたのとは違う顔が見えてきます。
その実験は、痩せるための実験ではなかった
参加者に出された指示は、ひとつだけ
8時間グループに伝えられたのは、次の1行だけでした。
「食べるのは、正午から午後8時までにしてください」
何を食べるかの指示はありません。どれだけ食べるかの指示もありません。カロリーを数えることも、食事の記録をつけることも求められていません。
ここが、この実験のいちばん誤解されているところです。これは「食べる時間を区切るだけで、人は勝手に食べる量を減らすのか」を確かめる実験でした。ダイエット法どうしの勝負として組まれたものではありません。
もう一方は、1日3食のグループ
比較のために置かれたグループに伝えられたのは、朝・昼・夜の3回、決まった時間に食べてください、というものでした。こちらもカロリーの指示はありません。
つまり両方とも、食事の中身は今までどおり。変えたのは時計だけです。
体の中身まで測れたのは、一部の人だけだった
体重は、自宅の体重計で測れます。けれど、減ったのが脂肪なのかそれ以外なのかは、自宅では分かりません。専用の機械が置かれた施設まで、実際に足を運んでもらう必要があります。
12週間のあいだ、そこまで通えた人は限られていました。8時間グループでは25人です。
のちに世界中で引用されることになる65%という数字は、この25人から出ています。
問題は、減った中身だった
体重は、たしかに減っていた
| グループ | 12週間での体重の変化 |
|---|---|
| 食べる時間を8時間に区切った | −1.70kg |
| 1日3食 | −0.57kg |
時間を区切ったほうが減っています。カロリーの指示を一切していないことを考えれば、これはこれで注目すべき結果でした。
問題は、そのあとに出てきます。
減った1.70kgの、中身
減った1.70kgを、脂肪と脂肪以外に分けてみます。脂肪だったのは、およそ3分の1。残りの3分の2、1.10kg が脂肪以外でした。割合にして65%です。
目安の2〜3割に対して、65%。倍以上です。この差が、「ファスティングは筋肉を削る」という言葉になって広まりました。
体重から脂肪を引いた、残りすべてです。筋肉だけでなく、水分も、骨も、内臓も含まれます。
この記事では、多くの人が読んでいるとおり、ひとまず「筋肉」として話を進めます。その呼び方が正しいのかどうかは、第2回で扱います。
同じ雑誌に、3人の研究者から反論が届いた
論文が出たあと、掲載した医学誌そのものに、反論が寄せられました。書いたのは3人の研究者です。そのうちの1人は、体の中身を測る技術を専門にしています。
指摘の中心は、測り方の精度でした。体の中身の数字は、体重計のように直接量ったものではなく推定値です。そこに現れた差を、どこまで実際の変化と見なしてよいのか。専門家が問うたのは、そこでした。
この反論に対しては、実験を行った側も同じ号で返答しています。研究者どうしのこうしたやりとりは、隠されずに公開されています。批判する側もされる側も、同じ場所で読めるようになっています。
反論を書いた研究者の中には、断食に関わるアプリの顧問を務めている人や、断食の研究で助成を受けている人がいます。まったくの第三者ではありません。
ただし、指摘されている測定精度の数字そのものは、機械の仕様として公開されているものです。誰が言ったかとは別に、確かめられます。
夜8時に食べ終えて、翌日の正午まで。それを12週間くり返しています。数日にわたって食事を抜く断食の話ではありません。そちらは第2回で扱います。
ここまでで分かること
| 分かったこと | どう受け取るか |
|---|---|
| 出どころは、1本の実験だった | 「筋肉が落ちる」は定説ではなく、ひとつの結果 |
| 痩せるための実験ではなかった | ダイエット法の優劣を比べる設計ではない |
| 65%は、片方のグループの中の内訳 | 目安の2〜3割を大きく超えている |
| 同じ雑誌に、3人の研究者が反論を寄せた | 測り方の精度そのものが問われている |
| これは「差がない」証明ではない | 次回、別の角度から確かめます |
持病のある方、薬を服用中の方、妊娠中・授乳中の方、成長期のお子さま。食事の時間や回数を大きく変える前に、必ず主治医にご相談ください。
この記事を書こうと思ったきっかけは、SNSで見かけた批判でした。ファスティングについて発信していると、「筋肉が落ちるからやめたほうがいい」というコメントが本当によく届きます。
私自身、去年2か月で体重を10kg落としました。やったのはファスティングと、週に2回程度の有酸素運動と、筋トレの3つです。
減量方法はカロリー制限や、糖質制限などいろいろとあります。ファスティングの研究論文はまだまだ少ないのですが、メリットも多くあります。その中で私自身はファスティングによる減量を成功させて、リバウンドもなく1年以上体重を維持しています。
正しい知識を得ることで、安全にダイエットに取り組むことができると思います。そんな中で私自身が疑問に思うことを調べて、書いていければと思っております。
よくある質問
やはり他のダイエットに比べ、ファスティングは筋肉を多く失うのか?
この研究に限ってはその可能性が示されていますが、そもそも「脂肪以外」を筋肉と呼んでよかったのでしょうか。
次回は、10日間まったく食べなかった13人の記録から始めます。減った脂肪以外の重さは、回復食のあと元どおりになっていました。
戻ったものの正体が分かったとき、65%という数字の見え方が変わります。
そのうえで、何十本もの試験をまとめたデータを並べます。その結果は、意外なものでした。
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参考文献
- Lowe DA, Wu N, Rohdin-Bibby L, et al. Effects of Time-Restricted Eating on Weight Loss and Other Metabolic Parameters in Women and Men With Overweight and Obesity: The TREAT Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2020;180(11):1491-1499.
- Tinsley GM, Peterson CM, Horne BD. Caution Against Overinterpreting Time-Restricted Eating Results. JAMA Intern Med. 2021;181(6):877-878.
- Weiss EJ, Lowe DA, Vittinghoff E. Caution Against Overinterpreting Time-Restricted Eating Results—Reply. JAMA Intern Med. 2021;181(6):878.
本記事は研究論文の紹介を目的とした情報提供であり、特定の食事法や商品の効果を保証するものではありません。診断・治療の代わりになるものでもありません。体調に不安のある方は、医療機関にご相談ください。
